『森を育てる技術』書評
(社)日本森林技術協会「森林技術」2007年8月号(785号)より
著者は、スウェーデン、オーストリアと日本の森づくりを比較した『森づくりの明暗』という本を1年あまり前に刊行し、この欄でそれが紹介されている。その書において技術というものの意義を深く考察したが、本書は植栽から伐採・搬出までの一連の技術を体系的に考察し、わかりやすく説明したものである。著者は、団体に勤め、一人親方をし、教員生活をした後、これまでの体験を踏まえて前著とともに本書を書き上げた。体験に基づく優れた考えの整理こそが本書の強みである。
著者は、安全で効率的な森林作業の具体的方法と、それを意味づけている林学的な知識の両方を身につけた森林技術者が必要だと強調する。プロの育成なしに日本の林業の振興はありえないと著者は考えるが、アマの役割も必要と考えている。したがって、本書はプロにもアマにもわかりやすいように配慮して書かれている。用語のあいまいさを排するように心がけていることも議論を正確なものにし、理解しやすいものとしている。
森林作業は、足場の悪い斜面で刃物や機械を使うために、安全で正しい技術を学ぶ必要がある。森林作業の8割ほどは、刃物を使った作業である。したがって森林技術者にとって刃物の安全な使い方や手入れの仕方に対する基本的な知識が必要であり、教育・訓練が必要である。体で覚える技術と、言葉で説明し頭で理解する知識、この両方が重要である。これらのことを著者は繰り返し述べ、その教育システムの必要性を強調している。日本の森林・林業の将来は技術者のレベルにかかっていると考えるからである。
長期的で一貫した視野の中に、体系的な技術が構築される必要がある。作業には必ず、森林をある方向に導きたいとする目的と、それを意味づける考え方が含まれているはずであり、したがって林学的な理論と現場の作業技術は、分離できない一体的なものであると著者は考える。そういう考えの中で、鉈(なた)や鋸(のこ)の使い方から測樹、選木、伐倒の仕方、高能率機械と称せられる機械の作業システム上の評価に至るまで、現場の作業技術を具体的にわかりやすく解説している。日本の林業技術の向上のために、林業技術者育成のために、技術者はもちろん、その周辺の人たちにもぜひ読んでいただきたい書である。
(日本森林技術協会 技術指導役/藤森隆郎)
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共同通信による配信(河北新報・静岡新聞・信濃毎日新聞ほか)
なた、おの、などの刃物の使い方や木の登り方をはじめ、植林から間伐、伐採まで、森をつくる技術を平易な言葉で体系的にまとめた『森を育てる技術』(川辺書林、2940円)が刊行された。
著者は長野県上伊那郡箕輪町在住の内田健一さん。信州大学農学部林学科を卒業後、森林開発公団職員、森林組合作業員、岐阜県立森林文化アカデミー教官など約15年間、森づくりに携わった。
林業の後継者が不足する中で「学問的な知識と肉体労働的な技術を統合し、これからプロを目指す人の教材にもなるものをつくりたい」と考え、同アカデミーを退職後、経験や資料を踏まえて体や道具の使い方を文章にしたという。
同書は、安全な作業のために必要な服装、装備、歩き方をはじめ、なた、おの、かま、のこぎりなど各種刃物の扱い方を解説。さらに植林の方法から森の成育状況の診断、木材の伐採技術まで、造林にかかわる一連のテクニックを体系的に説いている。
木登りの方法は、はじごや縄の使用など、安全対策を第一に考えながら実践しやすい方法を解説しているのが特徴。リアルなイラストも理解を助けてくれる。
内田さんは「“森づくり実践者”として、いずれはじっくり腰を落ち着けて森づくりができる拠点を見つけたい」と話す。